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奈良家庭裁判所葛城支部 昭和59年(少イ)1号 判決 1984年7月26日

被告人 假屋唯直(昭二四・二・三生)

主文

本件は管轄違。

理由

第一本件公訴事実

被告人は、暴力団○○組系○○組○○会の幹部組員であるが、A(昭和四四年九月三〇日生)が満一八歳に満たず家出しているものであることを知りながら、昭和五八年九月三〇日ころから同五九年一月一九日ころまでの間、同女を奈良県大和高田市大字○○×××番地の自宅に居住させた上、同女をして、

一  Bを客として、同人から一回三万円の対償を受け、同五八年一〇月七日午後九時三〇分ころ、奈良県橿原市○○町×××番地モーターイン「○○」の客室において売春させ

二  Cを客として、同人から一回四万円の対償を受け、同月八日午後八時ころ、及び同月三〇日午後三時三〇分ころの二回に、前記モーターイン「○○」の客室において売春をさせその対償から一回につき一万円ないし一万五千円を被告人が取得し、もつて、人を自己の占有する場所に居住させ、これに売春をさせることを業とするとともに、児童に淫行をさせる行為をしたものであつて、右の売春をさせることを業としたとの点は売春防止法一二条に、児童に淫行させたとの点は児童福祉法六〇条一項、三四条一項六号に各該当するというのである。

第二当裁判所の判断

検察官は、右両罪を刑法五四条一項前段の関係にあるものとしてその審判を求めているものと解せられるので、まず、管轄の点について判断するに、裁判所法三一条の三によれば、児童福祉法違反の罪は家庭裁判所の事物管轄に属するものとされているが、少年法三七条二項によると、児童福祉法違反の罪(本件では同法六〇条一項、三四条一項六号所定の罪)とその他の罪(本件では売春防止法一二条所定の罪)が刑法五四条一項に規定する関係にある事件については、児童福祉法違反の罪の刑をもつて処断すべきときに限り、売春防止法違反の罪をも合せて、家庭裁判所で審判することができ、かつ審判しなければならないものとされている。したがつて、その反対解釈として、売春防止法違反の罪の刑をもつて処断すべきときは、両罪は合せて地方裁判所で審判しなければならず、児童福祉法違反の罪といえども家庭裁判所で審判することは許されないものと解すべきである。

これを本件につきみるに、右公訴にかかる両罪の主刑はいずれも一〇年以下の懲役であつて同一であるから、いずれの刑をもつて処断すべきであるかは、刑法一〇条によりさらに犯情を比較して決しなければならないが、これは事物管轄を定めるために行うものであるから、起訴状に掲げられた右各公訴事実を比較検討してこれを行うべく、これによると、犯情については、児童福祉法違反の罪よりも売春防止法違反の罪の方が重いことが明らかである。

してみると、右両罪は地方裁判所支部において合せて審判すべきものであつて、当家庭裁判所支部には本件を審判する権限、すなわち事物管轄がないことになるので、本件については、刑事訴訟法三二九条本文により管轄違の言渡しをすることとする。

そこで、主支のとおり判決する。

(裁判官 松本朝光)

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